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研究トピックス
2020/05/13 投稿

火星コア物質の音速測定に成功 〜火星コアの組成と火星の起源解明に向けて〜

西田圭佑(研究当時:東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻助教、現:バイロイト大バイエルン地球科学研究所研究員)を中心とした、東京大学・東北大学・大阪大学・東京工業大学・KEK・SPring-8/JASRIの共同研究チームは、大型放射光施設SPring-8および放射光実験施設フォトンファクトリー(PF)を利用して、火星コアの主要構成物と考えられている液体鉄−硫黄合金の音速を、火星コアの環境に相当する20万気圧2000度という高圧高温の極限条件下で精密に測定することに成功しました。
従来、地球物理学的観測や火星隕石の研究から、火星には液体鉄−硫黄合金でできたコアの存在が示唆されてきました。しかし、これまで内部探査が行われてこなかったため、火星内部の構造や化学組成に関しては未だよくわかっていません。現在、NASAによる火星内部探査機インサイトが設置した地震計による内部構造探査が進行中で、すでに火震(火星の地震)を観測しています。火星コアを通る地震波を観測することができれば、その地震波速度を知ることができます。

そのような観測に先んじて、本研究グループは、火星コア物質とされている液体鉄−硫黄合金の音速(地震波速度)を実験室で測定することに成功しました。川井型マルチアンビルを使った高圧実験は、日本が世界をリードする研究手法で、これまでも地球や惑星深部の多くの謎を解明してきました。これに超音波パルス法と、SPring-8やPFの強力な放射光X線を組み合わせることで、高圧高温下における音速の精密測定が可能になります。しかし、10万気圧を超える高圧下では安定した高温発生が難しくなること、加圧に伴い試料体積が減少し試料からの超音波エコーが弱くなることなど技術的な課題が山積しており、この手法による液体鉄合金の音速測定は従来8万気圧以下に限られていました。

本研究グループは、高圧実験技術と超音波測定技術の高度化を進めた結果、これまで不可能だった火星コア最上部に相当する20万気圧という極限環境下においても、高精度で液体鉄合金の音速を測定することに成功しました。その結果、火星コア条件(約20~40万気圧)の大部分で、硫黄含有量によって液体鉄−硫黄合金の音速がほとんど変わらないことが明らかになりました。これは、従来の考え通り、火星コアが液体鉄−硫黄合金の場合、その地震波速度は硫黄量に関わらず今回の測定値と一致する必要があります。

一方、火星探査で得られる火星コアの地震波速度が本測定結果と異なる場合、シリコンや酸素など別の不純物の存在を意味します。シリコンと酸素は火星のマントルの主要元素であり、火星が微惑星の衝突によって大規模に融解した場合、両元素はコアにも取り込まれます。近未来の火星コア探査と実験室での液体鉄−シリコン・酸素合金の音速測定の組み合わせにより、火星コア中のシリコン・酸素の存在、さらには火星がかつて巨大衝突を経験したかどうかを検証することが出来ます。

現在JAXAは、火星衛星探査計画MMX(2020年代前半打ち上げ予定)を進めており、その目的の1つが、火星の2つの衛星フォボスとダイモスの起源の解明です。その有力な仮説が巨大衝突起源説です(月の成因と同じ)。このように本研究そして今後の研究の成果は、火星やその衛星の起源とも深く関わっている他、MMXミッションとも密接な関連があります。

本研究成果は国際科学雑誌『Nature Communications』に5月13日に掲載されました。

図 13万気圧における、鉄−10wt%硫黄合金(Fe80S20)の超音波信号とX線画像


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高エネルギー加速器研究機構
https://www.kek.jp/ja/newsroom/2020/05/14/0900/
本件に関する問い合わせ先

岡山大学大学院自然科学研究科地球生命物質科学専攻(研究当時:大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻) 教授 寺崎英紀(てらさき ひでのり)
E-mail tera@okayama-u.ac.jp