特徴

理学研究科は、平成23年に80周年を迎えた大阪大学理学部創設の精神と伝統を引継ぎ、因習にとらわれない、自由で生き生きした気風と独創性を重んじる研究第一主義を守り続けています。一見何の役に立つとも思えない基礎的な研究が重んじられる環境は科学の進歩にとって大変重要なことです。

例えば、遺伝子の構造は、それが明らかにされた1950年頃の段階では、何かに役立つと指摘した者はいませんでした。しかし、他の分野の科学の進歩と相俟って、その後、さまざまな技術に応用されるに至りました。このような例は他にも沢山あります。すなわち、技術の進歩は理学研究が作り上げた文化にその基盤を置いているのです。ある国が独自の革新的な技術を生み出すには、その国にしっかりと根を下ろした科学文化が存在しなければなりません。

最近の科学技術は高度化・専門化・広域化の一途をたどっています。基礎科学の伝統の上に立って新しい文化を創造し、そのための研究者を養成するという理学研究科の使命はいつの時代でも変わることはありません。しかし、環境問題、エネルギー問題などの科学技術と社会との関わりを十分理解することも重要ですし、国際的な広い視野を持ち、人類のために貢献するという姿勢も大切です。研究に携わる者は、より独創的、革新的な成果を生み出し、世界的視野で人類の幸福と発展に貢献する必要があります。

このような情勢の下で大学院教育も、従来の基礎研究を中心とした学術研究を通しての人材育成ばかりでなく、産業界のニーズに応える高度専門職業人の養成をも目指す必要が生まれました。このため、細分化された個々の領域における研究を通しての教育と、それらを統合・再編成した総合的な学問のバランスのとれた教育を目指すという二つの役割を果たす必要が生まれました。

理学研究科は、これらの時代の要請に応えるべく次の2点を目指し教育研究を行っています。

(1)理学部の伝統である自由で創造的な研究第一主義の学風を受け継ぎ、それぞれの専攻分野で自立し、優れた能力を有する研究者を育てる。

(2)あらゆる科学技術の基礎となる理学の教育研究指導を行うことによって、広範な自然科学の素養を持った高度専門職業人となるべき人材の養成を図る。

そのため学内外から広く教員を迎え、新しい理学の教育と研究を通して理学研究科は高度化、学際化、国際化を進めています。学内からは協力講座教員として、本学の情報科学研究科、生命機能研究科、基礎工学研究科、微生物病研究所、産業科学研究所、蛋白質研究所、核物理研究センター、レーザー科学研究所、ラジオアイソトープ総合センター、全学教育推進機構、サイバーメディアセンター、安全衛生管理部及び総合学術博物館の多数の教員が、関連する専攻の教育研究指導に参加しています。

また、学外からの連携・招へい教員として、慶應義塾大学大学院理工学研究科、国立研究開発法人理化学研究所、同産業技術総合研究所、同情報通信研究機構、株式会社ペプチド研究所、公益財団法人サントリー生命科学財団生物有機科学研究所、株式会社JT生命誌研究館の研究者も理学研究科の教育研究に加わっています。このように、理学研究科は非常に厚い教員層により、基礎科学から応用への展開にまで目を向けた視野の広い教育と研究を幅広い分野において実施しています。

20世紀に科学技術は驚異的な進歩を遂げました。今世紀には、その進歩は更に加速することでしょう。科学技術の進歩によって人類はどの時代にも経験したことがない豊かで快適な生活と長寿を手に入れました。一方では、ひたすら豊かさと効率を追求し続けた結果、エネルギー資源の枯渇と地球環境の破壊という重大な問題に直面することになりました。これらは、現代人の祖先が地球上に現れてから何万年もの長い歴史の中では一瞬とも言える短い期間に起こってきた問題です。

21世紀に生きる私達には人類史の中で科学技術を冷静に捉える英知が求められています。エネルギー、環境、食料、人口爆発などの諸問題に根本的な解決を与える革新的な科学技術を創造しない限り、人類の滅亡は避けられないでしょう。私達の世代はそのような技術を生み出す基礎科学を次の世代に文化遺産として継承する義務を負っているのです。理学研究科では、このような使命感に燃えた研究者達が自由闊達な研究環境の中で、自らが設定した目標の実現に向けて教育研究に全力を尽くしています。