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研究トピックス
2020/03/17 投稿

乱れのない固体結晶で電子スピンがガラス化する機構を理論的に解明

大阪大学大学院理学研究科物理学専攻の大学院生光元亨汰さん(博士後期課程)、東京大学大学院総合文化研究科の堀田知佐准教授、大阪大学サイバーメディアセンターの吉野元准教授の研究グループは、パイロクロア格子と呼ばれる正四面体のネットワーク構造をもつ固体結晶を舞台に、その格子点上に位置するモリブデンイオンがもつ電子スピンがガラス化する不思議な現象のメカニズムを、スーパーコンピューターを駆使した理論的な研究によって明らかにしました。

これまでこうした電子スピンのガラス状態は、不純物など外因性の強い乱れがある場合にしか理論的にはあり得ないとされてきました。そのため、こうした乱れのない純粋な物質で起こる電子スピンのガラス化が、実際になぜ起こるのかは大きな謎でした。

今回、吉野准教授らの研究グループは、電子スピンのガラス化の背後に潜む、電子のもう一つの顔、軌道自由度に注目しました。原子核の周りをまわる電子を、太陽の周りをまわる地球に例えれば、スピンは地球の自転に、軌道は太陽の周りの地球の公転に対応します。図でスピンは矢印で表していますがこれは自転軸に対応します。また量子力学によれば、電子の軌道は「雲」のようなものとしてイメージできます。

パイロクロア格子は正四面体をつなぎ合わせた形状をもっており、正四面体の各頂点にあるモリブデンイオンのもつ電子スピンは、それぞれ隣の頂点の電子スピンと、電子軌道を介してお互いに強く影響し合います。格子がきれいな規則的構造を保っているときは電子スピン間もすべて等しい関係にあるため、その影響がならされて互いにてんでばらばらの向きに自由に回転し、特定の磁気的な構造をもつことはありません。

ところが、正四面体がゆがむと、電子軌道の形が変形し、この軌道を介した電子スピン同士の関係も変化します。例えば図において、隣同士の電子スピンで互いに同じ向きに向こうとする強磁性的な相互作用(青太線)と、反対向きに揃おうとする反強磁性的相互作用(赤太線)という、場所によって異なった関係が生じます。

研究グループは、格子全体でみて四面体が不規則に乱れたパターンでゆがむ効果が、電子スピン間に空間的に乱れた関係をもたらすことに着目しました。スーパーコンピューターによる大規模計算によって、電子スピンと、格子・軌道の歪みがともに乱れた状態のまま同時に凍結した、スピンと軌道のガラス転移が、もともと乱れのないきれいな結晶で起きることを理論的に示しました。これにより、ソフトマターから固体物理学にまでまたがった物理学の未解決問題である「ガラス転移」の理解が大きく進むことが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Physical Review Letters」に、2月25 日(米国東部時間)に公開されました。

図 パイロクロア格子のひずみがない一様な場合(左)と正四面体がばらばらにひずんだ状態(右)。ひずみによって離れた電子スピン間で強磁性的に揃おうとする相互作用(青太線)と、反強磁性的に向きを逆にそろえようとする相互作用(赤太線)が乱れた配置で生じる。四面体の頂点にあるモリブデンスピンがこれと連動してガラス的に乱れた状態になる。


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本件に関する問い合わせ先

大阪大学 サイバーメディアセンター/大学院 理学研究科
物理学専攻(兼任) 准教授 吉野 元 (よしの はじめ)
TEL06-6850-6841 FAX: 06-6850-6842
E-mail: yoshino@cmc.osaka u.ac.jp