図
左:La3Ni2O7の結晶構造。
右:超伝導に重要であると考えられる原子軌道を抜き出して描いたもの。
大阪大学大学院理学研究科の黒木和彦教授と越智正之准教授らの研究グループは、鳥取大学学術研究院工学部門の榊原寛史 准教授との共同研究により、ニッケル酸化物La3Ni2O7(図:左)について、圧力下で最大超伝導転移温度(Tc)=80Kの高温超伝導が発現する要因を理論的に解明しました。La3Ni2O7は、2017年に黒木教授らによって高温超伝導が発現する可能性が指摘されており(M. Nakata et al., Phys. Rev. B 95, 214509 (2017) 以下, 論文Aとします)、今回の理論研究は、より詳細な計算により、論文Aの理論予想を裏付けたことになります。
高温超伝導の歴史は銅酸化物に始まり、鉄系超伝導、超高圧下における水素化物(典型的に200万気圧の圧力下でTc >200 K)と続いてきました。水素化物と、銅酸化物や鉄系超伝導との大きな違いは、超伝導の発現機構にあります。前者は「従来型超伝導」に属しており、原子の振動が超伝導発現に重要な役割を果たすのに対し、後者は「非従来型超伝導」と呼ばれ、電子間に働く強い反発力が超伝導発現の起源に深く関わっていると考えられています。従来型超伝導の理論研究の歴史は古く、高度に成熟しているため、水素化物の高圧下高温超伝導は、理論的に予想されてから実験的に実証されました。一方、これまで非従来型高温超伝導においては、その膨大な努力にもかかわらず、理論予想が実験に先行した例はありませんでした。今回の理論研究で、黒木教授らの論文Aが、実験に先んじてLa3Ni2O7における非従来型超伝導を予想していたことが裏付けられたことにより、史上初めて、非従来型高温超伝導において、理論予想が実験に先行したことになります。
本研究成果は上記の黒木教授、榊原准教授、越智准教授の他に,2019-2021年に大阪大学大学院理学研究科修士課程に在学して、本研究に関する源流的な研究を行っていた北峯尚也氏との共同研究です。また、研究遂行に際し日本学術振興会科学研究費助成事業(22K03512, 22K04907)の支援を受けました。発表論文は2024年3月4日にアメリカ物理学会が発行する「Physical Review Letters」(インパクトファクター=8.6)に掲載されました。
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左:La3Ni2O7の結晶構造。
右:超伝導に重要であると考えられる原子軌道を抜き出して描いたもの。
大阪大学 大学院理学研究科物理学専攻
教授 黒木 和彦(くろき かずひこ)
TEL:06-6850-5738
E-mail:kuroki@phys.sci.osaka-u.ac.jp