炭素材料は化学反応の金属触媒を担持させる素材として利用されています。もし炭素材料自体が触媒の働きを持てば、白金などの高価な金属触媒が不要になります。
岡山理科大学の田邉洋一准教授、筑波大学の伊藤良一准教授、米ジョンズ・ホプキンス大学の陳明偉教授らの研究グループは、東北大学の菅原克明准教授、高橋隆名誉教授、小谷元子教授、大阪大学の大戸達彦助教、西内智彦助教らの研究グループと共同で、炭素原子シートのグラフェンをモチーフとした立体的な曲面構造に、窒素を化学ドープすることで、グラフェンに電気が容易に流れる金属的な状態と、電子が曲面上の一部の領域に閉じ込められている(局在する)ために不安定で触媒反応に利用しやすい状態(絶縁体的な電子)が共存した特異な電子状態が実現していることを発見しました。
グラフェンは、高い電気伝導性を示す炭素の2次元シートです。グラフェンの炭素原子を窒素原子や硫黄原子で部分的に置換すると、化学的に不活性なグラフェンを化学的活性な状態へ変えられることが知られており、これを利用した電極触媒材料の開発が行われてきました。さらに、グラフェンを立体化させることで、非貴金属触媒や導電性の触媒担体として優れた性質を持つことが報告されています。しかし、3次元的な構造を持つグラフェン(3Dグラフェン)と化学ドープの組み合わせがどのようにして高機能触媒に結びつくのかはよく分かっていませんでした。
今回研究グループは、3次元ナノ多孔質グラフェンと呼ばれる3次元のナノ多孔質構造を持つグラフェンの曲面上の炭素原子を窒素原子で部分置換し、窒素ドープした3次元グラフェンの電子物性を詳細に調べました。その結果、曲面と窒素置換の組み合わせにより、アーバックテールと呼ばれるポテンシャルの乱れによって電子が閉じ込められた状態と電気が良く流れる金属的な状態が共存することが分かりました。本研究成果から、3次元構造を持つグラフェン上で触媒反応が起こる場所や担持触媒へ効率よく電子を輸送し触媒反応を促進する機構が明らかになったことから、化学ドープした貴金属を使用しない炭素系電極触媒や高機能触媒担体の更なる研究開発が進むことが期待されます。本研究はドイツ科学雑誌「Advanced Materials」に2022年10月8日(現地時間)付けでオンライン掲載されました。
本件に関する問い合わせ先
大阪大学大学院理学研究科化学専攻
助教 西内 智彦(にしうち ともひこ)
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