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研究トピックス
2021/07/28 投稿

わずか数工程で均一な糖タンパク質の合成に成功 ―分子を自在に操って、糖鎖をタンパク質へ化学的に挿入―

大阪大学大学院理学研究科化学専攻 有機生物化学研究室大学院生の野村幸汰さん(博士後期課程/日本学術振興会特別研究員DC)、真木勇太助教、岡本亮講師、梶原康宏教授および岡山大学ヘルスシステム統合科学研究科 佐藤あやの准教授らのグループは、チオアシッドを鍵物質とすることで従来と全く異なったアプローチによる糖タンパク質合成法を開発しました。さらに、開発した合成法により、免疫反応において重要なサイトカインである糖鎖結合型C-Cモチーフケモカインリガンド1(CCL1)及びインターロインキン3(IL-3)の化学合成を達成しました。また、細胞を用いた実験から、造血細胞上のIL-3-受容体と本合成法により合成したIL-3との複合体形成時における糖鎖の機能を解析することができました。

糖タンパク質は、ウイルスに対する免疫応答、炎症反応、細胞への信号伝達など様々な場面で機能しており、その糖鎖機能や生物学的現象を詳細に調べることが必要だと考えられています。しかし、生体内のタンパク質に結合する糖鎖は、様々な構造をしており、どの構造の糖鎖が重要かを特定することは難しく、また、バイオテクノロジーを利用しても高純度の糖タンパク質を得ることは極めて困難です。この問題の解決策の一つとして、糖鎖構造が自在に換えられ、かつ高純度の糖タンパク質が得られる化学合成が挙げられますが、従来の糖タンパク質合成法では、平均して100工程以上もの合成ステップが必要であり、一般的に合成が困難でした。

今回、本研究グループはチオアシッドを鍵物質として用いることで、化学選択的に糖鎖アスパラギンチオアシッドとタンパク質(ペプチド)鎖をつなぐ新規アミド結合反応“ジアシルジスルフィドカップリング(DDC)”を開発しました。 さらにDDCを応用した合成ストラテジーによって糖鎖をタンパク質の任意の位置に自在に挿入するような糖タンパク質合成法を開発しました。これにより、合成した糖鎖を迅速に糖タンパク質に組み込むことが出来、原料からわずか5工程程度で高純度な糖タンパク質の合成に成功しました。

実際に開発した方法を用いて合成した糖鎖を有したIL-3の細胞増殖活性を測定し、糖鎖の機能を評価したところ、IL-3とその受容体タンパク質間の結合を促進する新たな作用機序を考察することができました。

このような糖鎖の影響を調べる実験は、均一な糖鎖をもつ高純度糖タンパク質の迅速な調達が必要不可欠であり、本合成法は今後糖タンパク質上の糖鎖機能解明研究の鍵となると考えられます。さらに、本合成法を用いることで迅速に糖タンパク質を調製できるため、糖タンパク質製剤への応用も可能であると考えられます。

本研究成果は、2021年6月30日(水)に、米化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で公開されました。

図:新しい糖タンパク質合成法

糖鎖アスパラギンをタンパク質へ化学選択的に縮合することによって迅速に糖タンパク質を合成することが出来る。


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本件に関する問い合わせ先

大阪大学 大学院理学研究科 化学専攻
教授 梶原 康宏(かじはら やすひろ)
TEL:06-6850-5380 FAX:06-6850-5382
E-mail:kajihara@chem.sci.osaka-u.ac.jp