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研究トピックス
2021/06/30 投稿

霊長類細胞は二刀流で熱ストレスに対処する ―RNA 構造体による遺伝子発現制御機構の発見―

大阪大学大学院生命機能研究科の二宮賢介特任講師(常勤)、廣瀬哲郎教授(大学院理学研究科 兼任)らの研究グループは、細胞が高温(熱ストレス)に曝されたときに核内で作られる構造体「核内ストレス体」が、高温ストレスから回復する過程で2つの異なるメカニズムを併用して遺伝子発現を調節していることを明らかにしました。

核内ストレス体は、霊長類の細胞に特有の構造体で、熱ストレスによって転写されるHSATIII ノンコーディングRNA(lncRNA)を足場にして作られます。これまでに、本研究グループは、核内ストレス体が制御タンパク質のリン酸化反応の「るつぼ」として働き、RNA スプライシングを制御していることを明らかにしてきましたが、この核内ストレス体がさらなる新たな制御機能を持っていることが示唆されていました。

今回、本研究グループは、HSATIII が核内でRNA のメチル化修飾を受けること、これに伴って、核内ストレス体が周囲からメチル化関連タンパク質を吸い込んで閉じ込めてしまう「スポンジ」として働き、周囲のmRNA のメチル化修飾を抑えていることを発見しました。その結果、RNA のメチル化修飾によって起こるスプライシングが抑制されていることも分かりました。さらに、前述の「るつぼ」と今回明らかとなった「スポンジ」は、HSATIII のRNA 配列の大半を占めるGGAAU という同じ5塩基の反復配列が足場となり、そのメチル化の有無によってそれぞれ異なるタンパク質を集めてくることで、異なる機能を発現することが明らかになりました(図)。以上により、核内ストレス体は、共通のlncRNA 骨格による「スポンジ」と「るつぼ」という2つの機構を通した温度依存的なRNA スプライシング制御を行う多機能構造体であることが明らかになりました。今後、霊長類特有の熱ストレス応答機構の解明や霊長類への進化の謎に迫ることが期待できます。

本研究成果は、欧州科学誌「The EMBO Journal」に、6 月29 日(火)午後7時(日本時間)に公開されました。

図(左)核内ストレス体の蛍光顕微鏡イメージ:HSATIII(緑)とメチル化関連因子(マゼンタ)が共局在して白く見えている顆粒状構造体が核内ストレス体。

図(右):核内ストレス体の作用機構モデル:熱ストレスに応答してHSATIII lncRNA を骨格に形成された核内ストレス体は、温度正常化に伴って「スポンジ」「るつぼ」としての働きを通して温度依存的スプライシングを制御している。


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本件に関する問い合わせ先

大阪大学 大学院生命機能研究科 (大学院理学研究科兼任)
教授 廣瀬 哲郎(ひろせ てつろう)
TEL:06-6879-4674 FAX: 06-6879-7965
E-mail: hirose@fbs.osaka-u.ac.jp