図: 超臨界抽出物の直接導入 PTR イオン化によるカフェインの溶出過程のモニタリング
大阪大学大学院理学研究科の豊田岐聡教授らの研究グループは、超臨界流体抽出(SFE)/クロマトグラフィー(SFC)とプロトン移動反応(PTR)イオン化法を有する質量分析装置とを直接接続することで、従来の方法では分析が困難だった難揮発性有機物の迅速かつ高感度での質量分析を可能にしました。
質量分析法は、物質を原子・分子レベルのイオンにしてその質量数を測定することにより、それぞれの物質の同定や定量を行う方法です。ライフサイエンス研究、創薬、医療診断、食品分析、環境分析などで幅広く活躍していますが、迅速かつ高感度な分析のためには、物質を抽出・分離する技術とイオン化する技術が重要です。
PTRイオン化法は、大気中の揮発性有機化合物(VOCs)を迅速かつ高感度に検出する質量分析法のイオン化法として使われてきましたが、その対象物は、揮発しやすい低分子化合物に限られていました。
一方、超臨界流体抽出やクロマトグラフィーは、従来の分析手法では困難な化合物に適用できる手法として応用が期待されています。SFEやSFCでは超臨界流体を溶媒として用いるのが特徴です。たとえば、二酸化炭素は、臨界点(31℃,7.4MPa)を超えた温度・圧力にすると気体でも液体でもない超臨界流体状態になるため、温度・圧力を制御することで物質を選択的に溶かすことができます。この特徴を活かして、超臨界流体二酸化炭素はコーヒーからカフェインだけを工業的に除去したりするために利用されたりしています。
本研究では、この迅速な物質の抽出・分離が行えるSFE/SFC 技術と、PTR イオン化質量分析装置とを組み合わせることで、物質によっては、従来の 1000倍もの高い感度で非極性物質を検出することができることがわかりました。PTRイオン化法では、①SFE/SFCで溶媒として用いる二酸化炭素がイオン化されないため目的物質の質量分析を邪魔しないという点と、②真空下の閉じた空間でイオン化を行うため超臨界流体状態を保持して質量分析を行える点に豊田教授らが着目し、実現した成果です。
この方法により、従来の方法では分析が難しかった物質、とりわけ生体中の脂質や環境中の多環芳香族などが、容易に測定できるようになり、今後、医療診断や環境分析などの様々な学問分野の発展に寄与すると考えられます。
本研究成果は、2021年4月24日(土)午前1時(日本時間)に米国科学誌「Analytical Chemistry」に公開されました。
図: 超臨界抽出物の直接導入 PTR イオン化によるカフェインの溶出過程のモニタリング
大阪大学 大学院理学研究科
教授 豊田 岐聡(とよだ みちさと)
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E-mail: toyodam@phys.sci.osaka-u.ac.jp