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研究トピックス
2021/02/26 投稿

ナノスケール量子計測からリン脂質の動きを捉えることに成功-創薬に向けた細胞診断への応用に期待-

東京工業大学 工学院の石綿整研究員(科学技術振興機構(JST)さきがけ研究者兼務)、慶應義塾大学大学院理工学研究科の渡邉宙志特任講師(量子コンピューティングセンター所員)および大阪大学大学院理学研究科の花島慎弥准教授らは、ダイヤモンドをセンサーとして用い、わずか5nmの厚さの脂質二重層(細胞膜)を構成するリン脂質の動きを計測することに成功した。麻酔薬など薬物に対する細胞の反応はその7割以上が細胞膜と呼ばれる細胞を囲んでいる外側~5 nmの微小領域で始まっていることから、現在統計的に判断されている細胞の薬物反応の原理解明にはこの微小領域を高感度かつラベルフリーすなわち「ありのまま」に解析する細胞診断技術の開発が必須である。

研究グループは、ダイヤモンド窒素-空孔中心(以降NVセンタ)を用いたナノNMRと呼ばれる技術に着目した。ダイヤモンド中に窒素と欠陥により構成されるNVセンタは、細胞内部の温度を1℃以下の精度で測定するなど、生命現象を精密計測するナノ量子センサーとして注目されている。このセンサーの最大の特徴はそのサイズ(~1 nm)にあり、非常に小さいサイズを持つことから観測対象に対して10 nm以下の距離で高感度量子計測を行うことが可能である。観測対象近傍での計測からセンサー表面ごく近傍の限られた微小領域(~6 nm3)における物質の磁性(核スピン)を計測することが可能となる。そこで、細胞膜に見立てた薄い脂質二重層中を出入りするリン脂質の核スピンを計測するために、薄い膜状にしたセンサー上に脂質二重層を形成する技術を確立し、センサー表面から10 nm以下の検出範囲で量子計測を行ったところ、脂質二重層中のリン脂質分子の動きを示す拡散係数を計測することに成功した。

今回開発したナノNMR技術は、従来の生体計測のように蛍光分子で人工的に修飾したリン脂質分子ではなく、高感度かつラベルフリーでありのままの細胞膜中のリン脂質分子の動きを計測できることから、リン脂質分布や動きを制御するメカニズムの解明、リン脂質移動と疾患の関係を調べるための細胞診断技術につながることが期待される。
本研究はドイツの科学雑誌Advanced Quantum Technologies(アドバンスト・クァンタム・テクノロジーズ)のEarly Viewオンライン版に2月19日(現地時間)に公開された。また、同紙2021年Issue 4(2021年4月公開)に表紙として掲載予定である。

図:ナノスケール量子計測を用いた脂質二重層相転移計測のイメージ図
(赤)ダイヤモンド中のNVセンタ
(ピンク)NVセンタにより計測される微小領域
(青)リン脂質分子により構成される脂質二重層


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〈共同リリース機関HP〉

本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院理学研究科 化学専攻
准教授 花島 慎弥(はなしま しんや)
TEL:06-6850-5789 FAX: 06-6850-5775
E-mail: hanashimas13@chem.sci.osaka-u.ac.jp