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研究トピックス
2020/03/26 投稿

グラフェン・ディラック電子の対称性の破れを観測 – 極限超強磁場サイクロトロン共鳴実験が明かすディラック電子の真実 –

東京大学物性研究所の中村大輔助教、齋藤宏晃大学院生(研究当時)、嶽山正二郎教授(研究当時)、関西学院大学の日比野浩樹教授、大阪大学全学教育推進機構(理学研究科兼務)の浅野建一教授からなる研究グループは、炭素原子1層から成るグラフェンを対象に、560テスラまでの磁場下においてサイクロトロン共鳴実験を行い、電子のエネルギーが離散化することにより生じるランダウ準位構造を調べました。その結果、300-500テスラの磁場領域でサイクロトロン共鳴スペクトルに明確な分裂が観測され、「電子と正孔間の対称性の破れ」が生じていることを示しました。

単層グラフェンは電気的・熱的伝導性が従来の半導体に比べて極めて優れており、かつフレキシブルな電子デバイス材料であるために、応用に向けて世界中で開発研究が行われています。電気的伝導性を担うのが、質量ゼロの電子であるディラック電子であり、ディラック電子そのものの性質を知ることが、グラフェンの電子デバイスとしての性質を高める上で不可欠です。これまで、人為的にひずみ等を加えた単層グラフェンでは、電子と正孔のランダウ準位構造が非対称的になるという報告がありました。しかし、歪みのない理想的な単層グラフェンに関しては、電子と正孔の非対称性が極めて小さいと考えられていた為にこれまで実験的に観測された報告例はありませんでした。

磁場下では、電子の運動エネルギーが離散化したランダウ準位が形成され、その間隔は磁場が強くなるほど大きくなるため、超強磁場を用いることによって高い分解能でランダウ準位を決定することが可能になります。本研究では、物性研究所が有する世界で唯一100テスラ以上でのサイクロトロン共鳴実験とその精密な計測を行うことが可能な、1000テスラ級電磁濃縮法超強磁場発生装置を用い、精緻な実験を行うことにより観測に成功しました。

本成果は、「電子・正孔間の対称性の破れ」が歪みのない単層グラフェンそのものの性質であることを発見し、究極の電子デバイスとしてグラフェンを利用する際に重要となるディラック電子の隠れた性質を明らかにしました。本成果は、アメリカ物理学会が刊行する科学誌「Physical Review B」のEditors’ suggestionに選定され、米国東部時間3月16日版に掲載されました。

 電磁濃縮法による超強磁場発生の模式図

重い金属製の一巻きコイル(主コイル)内に軽い金属の円筒(ライナー)をセットし、主コイルに大電流を瞬時に流すことで、電磁誘導によりライナーに大電流を生じさせ、両者の間の電磁力により軽いライナーを超高速に収縮させる。このとき、あらかじめライナー内に導入しておいた初期磁束がライナー内に閉じ込められたまま濃縮されることで超強磁場が発生する。収縮するライナー内に測定物質を入れておくことで、超強磁場中での物性の変化を調べることができる。


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本件に関する問い合わせ先

大阪大学 全学教育推進機構/大学院 理学研究科(兼務) 教授 浅野 建一(あさの けんいち)
TEL:06-6850-6955
E-mail:asano@celas.osaka-u.ac.jp