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研究トピックス
2019/06/07 投稿

室温で2倍以上に!圧力による電子バレーの制御により熱電性能の向上に成功―セレン化スズ系熱電材料の高性能化に期待―

大阪大学大学院理学研究科の酒井英明准教授(JSTさきがけ研究者兼任、研究当時東京大学物性研究所客員准教授兼任)、元同理学研究科大学院生の西村拓也、大学院生の森仁志(博士課程後期)、黒木和彦教授、花咲徳亮教授らの研究グループは、東京大学物性研究所の徳永将史准教授と上床美也教授らの研究グループとの共同研究において、近年、優れた熱電材料として注目を集めているセレン化スズ(図左)に外部圧力を加えることで、室温を含む幅広い温度範囲で熱電性能(電力因子)が二倍以上に増大することを発見しました。さらに、この性能向上が、1960年代に物理学者リフシッツが提唱した電子のバレー状態のトポロジー変化(リフシッツ転移)に由来していることを世界で初めて明らかにしました(図右)。
物質中の電子は、ある特定の運動量を持つ状態のエネルギーが低くなり、電子バレー(谷)を形成しています。これまでバレー状態は、電気伝導だけでなく熱電性能を決定する重要な因子の一つと予想されていましたが、バレー状態の実験的な観測手法は限られており、その制御を同時に行うことは困難であったため、具体的な影響については解明されていませんでした。
今回、酒井准教授らの研究グループは、高性能熱電材料セレン化スズに外部圧力を印加した状態で熱電効果と同時に磁気抵抗効果を高精度で測定する手法を開発しました。この結果、電子バレーが圧力により新たに形成されることで、熱電性能が向上することを実験的に解明することに成功しました。また理論計算との比較により、セレン化スズ系熱電材料全般に適用できる設計指針が明らかとなり、熱電材料の更なる性能向上が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Physical Review Letters」のオンライン版に、6月7日(金)(米国時間)に公開されました。

図(左)熱電材料セレン化スズの結晶構造の模式図
 (右)熱電性能(電力因子)の外部圧力依存性。図の上部には運動量空間における電子バレーの模式図を示す

本件に関する問い合わせ先

大阪大学 大学院理学研究科 准教授 酒井英明(さかいひであき)
TEL:06-6850-5754
E-mail: sakai@phys.sci.osaka-u.ac.jp