図1:MgH₂試料に打ち込まれた負ミュオンは、Mg原子に捕獲され、外側の電子軌道から内側の電子軌道に落ち込む。この過程で、負ミュオンの向きの揃った磁針の数がどんどん少なく(磁場検出機能はどんどん弱く)なる。最も内側の軌道、つまりほぼMg原子核の位置で、負ミュオンは周囲の水素原子核が持つ磁石の作るランダムな磁場を感じる。図中では、水素をMg原子核に近く描いているが、実際には水素はMg原子核の大きさの約5万倍離れた場所に位置する。
株式会社 豊田中央研究所(豊田中研)の杉山 純 主監、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の下村 浩一郎 教授、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センターの髭本 亘 研究主幹、国立大学法人大阪大学大学院理学研究科の二宮 和彦 助教、国際基督教大学の久保 謙哉 教授らの共同研究グル-プは、負電荷を有する素粒子ミュオン(μ–)が物質中では水素以外の原子核に捕獲されて動かないことに注目し、負ミュオンスピン回転緩和(μ–SR)測定により、水素化合物中の水素の作る微小な磁場とその揺らぎの観測に世界で初めて成功しました。
本成果は、大強度陽子加速器施設(J-PARC)で開発された大強度負ミュオンビームと高集積陽電子検出器システムの組み合わせと、適切な測定材料の選択により得られました。μ–SRは、エネルギー関連材料中で重要な水素や軽元素の状態や運動を調べるのに重要な道具となることが実証されました。微小な磁場をμ–SRで観測できるのは世界でもJ-PARCのみなので、国内外のユーザーによりμ–SRの世界がさらに深化・発展していくことが期待されます。
なお、本成果は、8月21日米国のPhysical Review Letters誌にEditors’ Suggestionsとして掲載されました。また、本成果は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 JP26286084「量子ビームを駆使した固体内イオン拡散挙動の解明と電気化学素子への応用」とJP18H01863「スピンプローブを利用した電気化学界面でのイオン濃度・拡散の解明と理想界面の創成」の助成を受けたものです。
図1:MgH₂試料に打ち込まれた負ミュオンは、Mg原子に捕獲され、外側の電子軌道から内側の電子軌道に落ち込む。この過程で、負ミュオンの向きの揃った磁針の数がどんどん少なく(磁場検出機能はどんどん弱く)なる。最も内側の軌道、つまりほぼMg原子核の位置で、負ミュオンは周囲の水素原子核が持つ磁石の作るランダムな磁場を感じる。図中では、水素をMg原子核に近く描いているが、実際には水素はMg原子核の大きさの約5万倍離れた場所に位置する。
大阪大学大学院理学研究科
助教 二宮 和彦(にのみや かずひこ)
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