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研究トピックス
2017/08/04 投稿

世界初!細菌べん毛III型輸送装置ができるしくみを解明―全く新しいタイプの感染症薬の開発に期待 ―

大阪大学大学院生命機能研究科の南野徹准教授、難波啓一特任教授(常勤)らの研究グループと同大学院理学研究科の今田勝巳教授の研究グループは、細菌べん毛を作るために必要なタンパク質輸送装置がべん毛の根元にできるしくみを世界で初めて明らかにしました。
細菌の細胞表層にはべん毛と呼ばれるタンパク質でできた細長い繊維状の運動器官が生えていて、細菌はこれを使って水中を活発に泳ぎます。べん毛は細胞の外にできるので、べん毛繊維の根元には独自のタンパク質輸送装置が存在します(図1)。そのタンパク質輸送装置が、細胞内で合成されたべん毛タンパク質を認識し、べん毛中心を貫通する直径1.3 nmの細長い穴の中を通して先端へ輸送します。べん毛タンパク質輸送装置は6種類の膜タンパク質でできた輸送ゲート複合体と3種類の可溶性タンパク質でできたATP分解酵素複合体で構成されます(図2)。これまでに、ATP分解酵素複合体の構造や機能は詳細に解析されていますが、輸送ゲート複合体は取り扱いが困難であるため、ほとんど解析されていません。したがって、6種類のべん毛基部で膜タンパク質から輸送ゲート複合体ができあがるしくみは長い間謎でした。
今回、共同研究グループは、輸送ゲート構成タンパク質を単離精製することに成功し、世界で初めてその構造や輸送ゲート複合体ができるしくみを明らかにしました。これにより、べん毛タンパク質輸送装置と機能的にも構造的にも同じしくみを持つ、病原細菌のIII型分泌装置の膜タンパク質複合体を直接ターゲットにした創薬スクリーニングが可能になり、腸内細菌叢を死滅させることなく、病原細菌との共生もが可能となる、全く新しいタイプの感染症薬の開発が可能になると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「PLoS Biology」に、8月4日(金)午前3時(日本時間)に公開されます。

図1
細菌べん毛の構造.
(A) サルモネラ属菌の電子顕微鏡写真.(B)サルモネラ属菌から単離精製された電子顕微鏡写真. (C)べん毛の模式図.OMは外膜、PGはペプチドグリカン層、CMは細胞膜を示す。

図2
細菌べん毛タンパク質輸送装置の模式図.
輸送装置はべん毛基部に存在するMS-Cリング複合体の内部に存在する。輸送装置は6種類の膜タンパク質FlhA, FlhB, FliO, FliP, FliQ, FliRからなる輸送ゲート複合体と3種類の可溶性タンパク質FliH, FliI, FliJからなるATP加水分解酵素複合体から構成される。 CMは細胞膜を示す。

本件に関する問い合わせ先

大阪大学 大学院理学研究科
教授 今田 勝巳(いまだ かつみ)
TEL:06-6850-5455/5456  FAX: 06-6850-5455
E-mail: kimada@chem.sci.osaka-u.ac.jp