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研究トピックス
2016/01/29 投稿

鉄系超伝導体のフォノンと磁性 -磁気秩序に伴うフォノンエネルギー分裂の観測に初めて成功-

理化学研究所(理研)放射光科学総合研究センター バロン物質ダイナミクス研究室の村井直樹大学院生リサーチ・アソシエイト(大阪大学大学院理学研究科大学院生)、福田竜生客員研究員(日本原子力研究開発機構副主任研究員)、アルフレッド・バロン准主任研究員と、大阪大学大学院理学研究科の田島節子教授、高輝度光科学研究センターの内山裕士研究員らの共同研究グループは、大型放射光施設「SPring-8」に設置されている高分解能非弾性X線散乱分光器を使って、超伝導を示さない鉄系超伝導体母物質のフォノン(物質の結晶格子の振動)の精密測定に成功しました。

超伝導とは、金属などをある温度(超伝導転移温度)以下に冷却すると、電気抵抗がゼロになる現象です。通常、物質中をばらばらに運動している電子は、超伝導状態では2個ずつ対になって運動します。超伝導が発現するメカニズムには、物質のフォノンを介したものや、磁性を介したものなどが知られています。

2008年に日本で発見された高温超伝導体の1つである鉄系超伝導体には、フォノンを介した従来の超伝導発現メカニズムでは説明できない点があり、磁性を介した超伝導発現の可能性が探られています。その一方で、実際に観測されたフォノンと理論計算が一致しないという問題が指摘されています。例えば、理論計算から鉄系超伝導体が磁気秩序(磁気モーメント[の秩序だった配列)状態になるとフォノンが異方的な(方向によって性質が異なる)振る舞いをすることが予想されていますが、これまでの測定ではフォノンのそのような振る舞いは観測されていません。

そこで、共同研究グループは磁気秩序状態にした鉄系超伝導体母物質「SrFe2As2」のフォノンの異方的な振る舞いの観測を試みました。その結果、磁気秩序状態でのフォノンエネルギーの分裂の観測に成功し、エネルギー分裂の大きさは理論計算よりも小さく、磁気揺らぎの効果として説明できることを明らかにしました。

本成果は、鉄系超伝導体母物質のフォノン測定により磁性情報に対する知見を得た初めての例であると同時に、超伝導の発現に不可欠な要素であるフォノンと磁性がお互いにどのように関係しているのかという重要な問題提起をするものです。

本研究は、米国の科学雑誌『Physical Review B(Rapid Communication)』オンライン版(1月25日付け)に掲載されました。

research20160129

(a) 低温領域で現れる磁気秩序状態では、2つの異なるドメイン配向が結晶中で共存している。赤丸は鉄原子、黒の矢印は鉄原子の持つ磁気モーメントを表す。
(b) 上下方向へ圧力を加えた状態で磁気移温度まで冷却すると、ドメイン配向の揃った単結晶試料となる。
(c) 上下方向への加圧に使用した試料ホルダー。小さな測定試料を銅板で挟み込み、これをネジで締め付けることで試料に圧力を加える。測定試料の縦の長さは800マイクロメートル(μm、1μmは100万分の1メートル)。

本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院理学研究科
教授 田島 節子(たじま せつこ)
TEL:06-6850-5755
E-mail:tajima@phys.sci.osaka-u.ac.jp