大阪大学大学院生命機能研究科の上野剛志さん(研究当時:同理学研究科博士課程・日本学術振興会特別研究員 (DC2) 現:日本学術振興会特別研究員(PD))、二宮賢介特任講師、谷口一郎特任助教(常勤)、廣瀬哲郎教授(同理学研究科、先導的学際研究機構兼任)の研究グループは、国立がん研究センター研究所の足達俊吾部門長、北海道大学遺伝子病制御研究所の野田展生教授との共同研究によって、細胞内で温度を感知する新たな「温度センサー」を発見し、その情報が遺伝子発現制御へと変換される一連の仕組みを明らかにしました。
ヒト細胞は熱ストレスを受けると、核内に核内ストレス体(nSB)と呼ばれる膜のないオルガネラ(非膜オルガネラ)を形成します。nSBは熱ストレスから回復する過程で標的遺伝子の発現をRNAスプライシングの段階で制御することが知られていました。この過程では、熱ストレス時に脱リン酸化された不活性型スプライシング制御因子SRSFがnSB内に集積し、温度が正常に戻ったストレス回復期になると、SRSFのリン酸化酵素CLK1が取り込まれて、SRSFをnSB内で効率よくリン酸化し、再活性化します。このように、nSBはSRSFのリン酸化の酵素と基質を濃縮することで反応を促進する「るつぼ」として機能することが知られていました。しかし温度変化がどのようにCLK1のnSBへの集積を制御し、この「るつぼ機能」を作動させるのかは明らかになっていませんでした。
今回、研究グループは、CLK1が熱ストレス回復期にのみnSBへ集積する仕組みを解析し、CLK1のSer341リン酸化がこの局在制御の鍵であることを見出しました。さらに、このリン酸化状態がPP1(Protein Phosphatase 1)による脱リン酸化とRIOK2 (RIO Kinase 2) によるリン酸化によって制御されることを明らかにしました。
さらに、全体が特定の決まった立体構造をとらない天然変性タンパク質で、PP1の阻害因子であるPPP1R2が温度を感知する新たな「温度センサー」であることを発見しました。PPP1R2は高温条件でPP1から解離し、温度低下に伴って再結合することが判明しました。この可逆的な結合変化によってPP1活性が温度依存的に変化し、CLK1リン酸化状態の制御を介してnSBの「るつぼ」機能の切り替えを実現していることが示されました。
本研究は、天然変性タンパク質が温度変化を直接感知するセンサーとして機能することを初めて明らかにした成果であり、非膜オルガネラの機能制御への理解を深めるとともに、細胞の環境応答機構の理解に新たな視点をもたらします。本研究成果は、米国科学誌「Molecular Cell」に、7月17日(金)午前1時(日本時間)に公開されました。

天然変性タンパク質PPP1R2は温度センサーとして働き、CLK1のリン酸化と核内ストレス体 (nSB) への局在化を制御します。その結果、nSBによるスプライシング制御が温度依存的に調節されます。
本件に関する問い合わせ先
大阪大学 大学院理学研究科/大学院生命機能研究科
教授 廣瀬 哲郎(ひろせ てつろう)
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