大阪大学大学院理学研究科の川室太希助教、東北大学の山田智史助教と野田博文准教授、芝浦工業大学の井上芳幸教授(研究開始当時:大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻 准教授)、東京理科大学の小川翔司助教、福岡教育大学の水本岬希准教授らの研究グループは、日本主導で打ち上げたX線分光撮像衛星XRISMと、NASAのX線天文衛星NuSTARを用いて、ブラックホール近傍のガス円盤の構造が時間進化していく様子を明らかにし、一般相対性理論の予言の一つ「レンズ・ティリング歳差」として説明できることを明らかにしました。
本研究では、りょうけん座方向にある銀河NGC4395の中心にあるブラックホールを約5日間観測しました。ブラックホールそのものは光を出さないため、直接見ることはできません。しかし、ブラックホールへ落ち込むガスは非常に高温になり、X線を放ちます。さらにこのX線が周囲を照らし、照らされた鉄原子から決まったエネルギーを持つ光 (特性X線) が放たれます。この鉄原子からの特性X線のエネルギーは、ブラックホールの強い重力やガスが高速で回転することによるドップラー効果の影響を受けて変化します。逆に考えると、その変化を高い精度で捉えることで、ブラックホール周辺の構造や運動、さらには時空をも調べることができます。
今回、研究グループはX線天文衛星XRISMに搭載の検出器Resolveの非常に高いエネルギー分解能を活かし、NGC4395のブラックホール周りの鉄原子からの特性X線を詳しく調べました。その結果、遠方で比較的ゆっくり回転する物質から出る成分と、ブラックホールの近くで強い重力を受けながら高速回転する円盤状のガスから出た成分を精度よく分離することに成功しました。さらに、観測データを時間ごとに分けて解析したところ、特性X線の形状が刻々と変化していることがわかりました。ここから円盤の内側が徐々にブラックホールに近づいていること、さらには円盤の傾きが約2.4日の周期で変化し続けていることがわかりました。
本研究は、一般相対性理論が予言する「時空の引きずり」により、ブラックホール近傍のガス円盤が歳差運動し揺れ動く様子を、円盤からのX線放射の観測から世界で初めて捉えた可能性を示す成果です。また、ブラックホール近くの物質の動きの時間変化を調べることで、強い重力場における一般相対性理論の予言を検証する新しい道を開くものです。今後、同様の観測を他のブラックホールにも広げることで、ブラックホールがどのように物質を飲み込み、どのように成長してきたのかを理解する重要な手がかりになると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「The Astrophysical Journal Letters」に、7月9日(木)午前1時(日本時間)に公開されました。

Resolve と過去の X 線天文衛星 「すざく」の X 線スペクトル (それぞれ、黒と灰色のクロスで表されている。)。エネルギー 6 keV あたりで、遠く比較的ゆっくりと動いているガスからの細い特性 X 線 (青線) に加え、ブラックホール近くの円盤からの広がった成分 (オレンジ線) が、Resolve によって綺麗に見分けられていることがわかる。右上では、ブラックホール近傍から出た X 線が円盤や遠方のガスに当たり、特性 X 線が出るパスを示している。
本件に関する問い合わせ先
大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻
助教 川室 太希(かわむろ たいき)
TEL:06-6850-5476
E-mail:kawamuro@ess.sci.osaka-u.ac.jp