大阪大学大学院理学研究科物理学専攻の藤原浩司氏(研究当時、博士後期課程3年)、高田真太郎准教授、新見康洋教授らの研究グループは、音波の一種である表面弾性波によって、電荷密度波状態を示す一次元鎖化合物NbSe3にひずみを与えることで、電流電圧特性に量子化を示すプラトー構造が出現することを発見しました。
ひずみは物理学における基本概念の一つです。物質を対象とする物性物理学の分野では、圧電基板に電場を印加することで電気的にひずみを制御することができます。この原理は周波数フィルタなどにも応用されている表面弾性波の基礎となっています。
研究グループは、粘着テープを用いた機械的剥離法により、一次元鎖化合物NbSe3を劈開(特定方向に割ること)して細線状に加工し、それを圧電基板LiNbO3に転写しました。そしてLiNbO3基板上に準備しておいた櫛形電極に交流電圧を印加することで、NbSe3細線に表面弾性波を照射しました。NbSe3はある温度以下で結晶がひずみ、電子が秩序化した電子状態である「電荷密度波状態」を示します。この状態に表面弾性波を照射することで、電流電圧特性に量子化を示すプラトー構造が現れることを発見しました。
さらに研究グループは、この量子化電流が一次元鎖化合物のひずみによって誘起されることを明らかにしました。この結果は、ひずみによって誘起される量子化電流の研究を進展させ、ひずみ誘起を用いたデバイス応用への道を開くものです。
本研究成果は、米国科学誌「Physical Review Letters」のEditors’ Suggestionとして、2025年12月17日(水)(日本時間)に公開されました。

(左)圧電基板LiNbO3上に転写されたNbSe3細線と、NbSe3細線に表面弾性波を照射するための櫛型電極の光学顕微鏡像。(右) CDW電流ICDWと印加した直流電圧Vdcの関係。測定は電荷密度波転移温度以下の45 Kで行われた。ICDWに量子化に伴うプラトー構造(n = 1, 2, 3)が観測された。
本件に関する問い合わせ先
大阪大学 大学院理学研究科
教授 新見 康洋(にいみ やすひろ)
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