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    ひずみを利用したマルチスピン分子創出への大きな一歩
研究トピックス
2025/10/27 投稿

折れ曲がった芳香環を持つ カーボンナノリングの創出に成功
ひずみを利用したマルチスピン分子創出への大きな一歩

大阪大学大学院理学研究科の大学院生の槙原優太さん(博士後期課程2年)、久保孝史教授、西内智彦准教授らの研究グループは、大きく歪んだ芳香環を有した特別なカーボンナノリング[2.2]CAPPの創出に成功しました。このカーボンナノリングは、その環骨格において、通常、ベンゼン環に特徴的な芳香族性が分子ひずみによって失われたことで高い反応性を示す「キノイド構造」を有することを明らかにしました。

これまでに報告されているカーボンナノリングは、基本的にベンゼン環を多数繋げた分子骨格を有しており、各ベンゼン環が有する芳香族性は保たれたままでした。量子化学計算では、芳香環の数が少ないカーボンナノリングにおいては芳香族性が失われたキノイド構造を示すことが予測されていましたが、これまでにそのようなキノイド構造を有する分子の単離と構造評価については実施されていませんでした。

今回、研究グループは、ベンゼン環を3つ繋げた「アントラセン」と呼ばれる芳香環をベンゼン環と交互に配置した合計4つの芳香環から構成される非常に小さなカーボンナノリング[2.2]CAPPを設計・合成しました。この小さなカーボンナノリングが有する大きな分子のひずみは、アントラセンに集中することで[2.2]CAPPは折れ曲がったアントラセンを有する特殊な構造を示しました。それにより、リング内に生じる大きな分子のひずみがアントラセンに集中し、その結果、導入したベンゼン環は芳香族性を失い、キノイド構造を有するカーボンナノリングの創出に成功しました。

さらに、この研究グループは、分子構造により生じる光学的特性を解明し、高いひずみエネルギーにより[2.2]CAPPが空気中で分解することも確認しました。

本研究成果は、ジラジカル状態を経てキノイド構造を持つ分子を合成し、物性を解明した初めての事例です。また、今後は非線形光学特性を活用した新規材料の開発や超高感度な量子センサーとしての応用が期待でき、不対電子が多数存在したマルチスピンカーボンナノリングの創出への展開が可能となります。

本研究成果は、米国化学誌「Journal of the American Chemical Society」に、10月7日(火)に公開されました。

[2.2]CAPPの分子構造(左)とそのX線結晶構造解析(右)

 
 
 
 

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本件に関する問い合わせ先

大阪大学 大学院理学研究科 化学専攻
西内 智彦(にしうち ともひこ) 准教授
TEL: 06-6850-5386
E-mail: nishiuchit13@chem.sci.osaka-u.ac.jp