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    ~常圧における電子密度波を伴う金属状態をミクロに観測~
研究トピックス
2024/05/22 投稿

層状ニッケル系高温超伝導現象の理解へ一歩
~常圧における電子密度波を伴う金属状態をミクロに観測~

大阪大学大学院理学研究科大学院生の栫昌孝さん(博士課程)、大学院基礎工学研究科の大学院生大井喬さん(修士課程)、大下裕仁郎さん(修士課程)、八島光晴助教、椋田秀和准教授らを中心とする研究グループは、新しい高圧下高温超伝導物質であるニッケル酸化物(La3Ni2O7および類似物質La4Ni3O10)において核磁気共鳴(NMR)実験を行い、これら層状ニッケル酸化物に共通して常圧の電子相には電荷の空間分布を伴う密度波を伴う金属状態にあることをミクロな視点から明らかにしました。 

2023年5月、層状ニッケル酸化物(La3Ni2O7)において高圧下で転移温度80K(約-193℃)という高温超伝導物質が中国の研究グループによって発見されました(図)。銅酸化物の発見(1986年)以後、世界中の研究者が探索してきたニッケル酸化物での高温超伝導現象の発見は大きな注目を集めています。超伝導の発現機構の解明に向け、高圧下高温超伝導相の近傍である常圧域ではどのような電子状態にあるのかの解明が望まれていますが、まだよくわかっていません。

今回研究グループは、核磁気共鳴(NMR)実験手法により、電子の電荷の空間分布を伴う密度波転移を起こすこと、それに伴い伝導電子密度が大きく減少しながらも低温で金属的な電子状態にあることを観測しました。このことから、異なる特徴をもつ複数の伝導電子バンドからなる物質相にあることが示唆されました。それらの現象が2層型と3層型のニッケル酸化物に共通して起こることを明らかにし、今後層数の異なるニッケル酸化物での新しい超伝導発見の可能性を期待させる成果が得られました。

本研究成果は、日本物理学会発行の「Journal of Physical Society of Japan」誌の2024年5月号(オンライン4月22日(月))に公開されました。特に5月号の注目論文(Editors’ Choice) に選出されました。

 

図.2層型ニッケル酸化物La3Ni2O7の圧力超伝導相図。常圧付近にどのような電子秩序相から高温超伝導相へ至るのか、その電子状態の解明が待たれる。右は常圧での結晶構造(VESTAで作成)。

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