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研究トピックス
2015/03/31 投稿

脂質の分布をありのままに観察する新技術 〜小さな目印をつけて直接観察することに成功〜

JST 戦略的創造研究推進事業において、理化学研究所の袖岡 幹子 主任研究員と大阪大学 大学院理学研究科の村田 道雄 教授らは、脂質ラフトの重要な構成成分であるスフィンゴミエリンに小さな目印を付けることで、その分布の正確な観察に成功しました。

脂質ラフトは細胞膜中の微小領域で、免疫細胞応答やウイルスの侵入、シグナル伝達といった生体現象に関与し、スフィンゴミエリンなど特定の脂質分子が特異的に集合することで形成されます。これらの脂質分子に膜たんぱく質が結びつき働くことでシグナル伝達などが促進されるため、脂質の分布は生命現象や疾患のメカニズムを知る上で重要な情報です。これまで、目的の脂質分子に蛍光分子を結合させた蛍光脂質注を観測することで可視化されてきましたが、大きな蛍光分子との結合により脂質本来の性質を失うことが問題でした。本研究ではラマン散乱顕微鏡に着目し、アルキンを観測の目印としてスフィンゴミエリンに結合させることで、スフィンゴミエリンのみを検出し、脂質本来の性質を失うことなくその空間分布を正確に観測することができました。

本研究では大阪大学 大学院工学研究科の藤田 克昌 准教授らが開発した高速・高感度なラマン散乱顕微鏡を用い、単分子の人工脂質ラフト膜におけるスフィンゴミエリンの分布の観察に成功しました。また、ラフトに相当する領域内では均一に分布していると思われていたスフィンゴミエリンの濃度が、中心から周辺にかけて徐々に変化していくという新たな知見が得られ、脂質膜の分析や動態の解明への貢献が期待されます。

本研究成果は、2015年3月30日(米国東部時間)の週に米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン速報版で公開されます。

図1 ドメイン共存モデル

図1 ドメイン共存モデル
細胞膜における脂質分子の分布は均質ではなく、一部の脂質分子が特異的に集まって、脂質ラフトとなる領域を形成している。これまで、脂質ラフト膜は、スフィンゴミエリンが多い領域(ラフトドメイン)と、スフィンゴミエリンが少ない領域(非ラフトドメイン)とに、明確に分離していると想定されていた。

本件に関する問い合わせ先

村田 道雄(ムラタ ミチオ)
大阪大学 大学院理学研究科 教授
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-1
Tel/Fax:06-6850-5845
E-mail:murata@chem.sci.osaka-u.ac.jp