大阪大学インターナショナルカレッジ(大学院理学研究科兼任)のXI JILI 特任助教(常勤)、大学院理学研究科の濵中良隆講師、志賀向子教授の研究グループは、マメ科の植物の害虫であるホソヘリカメムシ(Riptortus pedestris)について、季節に応じて生殖活動を制御する重要分子である神経ペプチド「コラゾニン」の働きを明らかにしました。
多くの昆虫は、昼夜の長さ(光周期)を手がかりに季節の到来を予測し、生殖を抑制した生理状態である「休眠」に入ることで冬などの厳しい季節を乗り越えます。これまで、本種の産卵を促進する分子や神経細胞は同定されてきましたが、季節適応に重要な休眠を誘導する分子およびその神経回路の詳細は明らかにされていませんでした。今回の研究では、RNA干渉法でホソヘリカメムシのコラゾニン遺伝子の発現を抑制した結果、通常は短日条件下で生殖休眠に入るメス成虫が卵巣を発達させ産卵する様子が確認され、コラゾニンが休眠誘導に重要な分子であることが示されました。
さらに、コラゾニンはホソヘリカメムシの脳の側方部に存在する神経細胞に発現しており、これらの細胞は約24時間の体内時計(概日時計)からの情報を伝えると考えられる色素胞拡散因子(PDF)ニューロンと神経接続し、内分泌器官である側心体や動脈を経由して血リンパ中にコラゾニンを分泌することが解剖学的に明らかとなりました。
また、コラゾニン受容体は側心体には存在せず、脂肪体と卵巣に発現していることから、コラゾニンは生殖器官に直接作用することで生殖を抑制していることが示唆されました。
本研究成果は、昆虫の脳内で光周期情報がどのように処理・伝達され、季節的繁殖を制御するかを理解する上で大きな手がかりとなり、今後の昆虫の季節適応メカニズムや害虫管理技術の開発にも貢献することが期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「The Journal of experimental biology」(オンライン)に、6月23日(月)に公開されました。
短日条件下における生殖抑制の神経内分泌経路
本件に関する問い合わせ先
大阪大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 志賀研究室(比較神経生物学)
特任助教(常勤) XI JILI (し じり)
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