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研究トピックス
2016/07/07 投稿

「リング」タンパク質の保持が変異を防ぐ ‐DNA合成の誤りを修復し、変異を防止するメカニズムを解明‐

大阪大学大学院理学研究科の高橋達郎助教、河添好孝博士後期課程3年、中川拓郎准教授、升方久夫教授、九州大学大学院理学研究院の釣本敏樹教授らの共同研究グループは、DNA合成の誤りを修復し、変異やがんを防ぐ反応のメカニズムを明らかにしました。

細胞が増えるためには、DNAにコードされた遺伝情報をコピーする必要がありますが、このときコピーの誤りが生じることがあります。これを直さずにおくと、遺伝情報の変化(変異)が起こります。変異が溜まると正しいタンパク質が作れなくなり、正常な細胞が「がん細胞」に変化することが分かっています。

ミスマッチ修復は、このコピーの誤りを修復するための重要な機構です。DNAは二本の鎖からなっており、複製の際にはこれをほどいて一本にした後、それぞれを鋳型に新しい鎖を合成します。古い鎖には正しい情報が記録されており、誤りは新しい鎖に含まれます。ミスマッチ修復は、古い鎖と新しい鎖を見分け、誤りを含む新しい鎖だけを直しますが、その反応メカニズムの詳細は分かっていませんでした。

本研究では、アフリカツメガエルと呼ばれる両生類の卵をモデル系に使って試験管内でミスマッチ修復を再現し、DNA複製に必要なタンパク質の複製クランプ(PCNA)が新旧鎖を区別する情報を持つことを実験的に証明しました。さらに、ミスマッチ修復はPCNAがDNAから外されてしまうのを防止して鎖の情報を長時間保持することを発見しました。

変異の蓄積はがんや遺伝病の原因となり、ヒトの健康を脅かします。一方で遺伝情報の変異には、正常な免疫応答や、生物の進化の原動力としても重要であるという正の面もあります。今後、ヒトにおける変異蓄積の原因解明や、進化を人為的に加速させての品種改良など、さまざまな側面で本研究成果の発展応用が期待されます。

本研究成果は、英科学誌「eLife」に、日本時間7月12日(火)22時にオンライン公開されます。

research20160711

<DNA合成の向きとPCNAの役割>
PCNAはリング型の分子で、DNAを取り囲んで結合する。PCNAのDNA合成酵素結合面は、赤矢印で示した新しいDNAの合成方向と一致する。合成の誤りは新しいDNA鎖に生じる。

本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院理学研究科 生物科学専攻
助教 高橋 達郎(たかはし たつろう)
E-mail:tatsuro_takahashi@bio.sci.osaka-u.ac.jp