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研究トピックス
2016/01/26 投稿

-30億年変わらぬ蛋白質の立体構造を維持- 光合成によるエネルギー変換装置の構築原理を実証

大阪大学大学院理学研究科の大岡宏造准教授は、立命館大学生命科学部の浅井智広助教、名古屋大学大学院理学研究科の加藤祐樹助教、野口巧教授らの研究グループとの共同研究により、光合成によるエネルギー変換装置の基本構造は普遍的であることを明らかにしました。高等植物や藻類の光合成で働く光合成蛋白質Photosystem I(PS I)は、太陽エネルギーを利用して炭酸固定等に必要な高い還元力(NADPH)を作り出します。このPS I蛋白質は約30億年前に誕生した緑色イオウ細菌と呼ばれる光合成細菌のもつ光合成蛋白質から進化してきました。高い還元力を生み出すには、初期電荷分離反応にとって重要なクロロフィルの2量体からなるスペシャルペアが必要です。約30億年もの長い進化の歴史においても、スペシャルペアを取り囲む蛋白質の構造は、ほとんど変化せずに維持されてきたことが分かりました。

また、緑色イオウ細菌の光合成蛋白質の構造的解析はこれまで進んでいませんでしたが、本研究グループで独自に開発してきた遺伝子改変技術を用いることで、世界で初めて変異蛋白質を創出することに成功しました。

本研究は光合成蛋白質の構築原理を解明した点において大きな意義があり、初期電荷分離反応を模した人工光合成系の開発に貢献することが期待されます。例えば電荷分離反応で生じた電子を効率的に取り出すデバイスの開発にもつながる可能性があります。

本研究成果は、2016年1月25日10時(英国時間)に英国の科学誌「Scientific Reports」電子版(Nature Publishing Group)に掲載されました。

research20160126

(図1)高い還元力(NADPH)を生み出すPS I蛋白質の立体構造(左)。PS I蛋白質のスペシャルペア(P700と呼ばれるクロロフィル2量体)周辺の詳細構造(右)。スペシャルペアの片方が結合する側(PsaA side)のみを示す。アミノ酸配列の比較から、PS I蛋白質の各アミノ酸残基(Phe676, His680, Thr742, Thr743)は、緑色イオウ細菌の光合成蛋白質のアミノ酸残基(PscA-Leu617, -His621, -Leu688, -Val689)に対応すると推測された。このうちPscA-Leu688, -Val689をシステイン残基に改変したところ、FTIR法によりSH伸縮バンドとクロロフィルのケトC=Oのバンドシフトが検出され、PS I蛋白質の分子環境の再現に成功した。

本件に関する問い合わせ先

大岡 宏造(おおおか ひろぞう)
大阪大学大学院理学研究科 生物科学専攻 准教授
〒560-0043 大阪府豊中市待兼山町1-1
Tel & Fax: 06-6850-5424
E-mail: ohoka@bio.sci.osaka-u.ac.jp