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研究トピックス
2013/10/09 投稿

光合成の中核をなす「歪んだ椅子」構造の謎をついに解明

~触媒活性の要因特定で人工光合成系の実現に重要な一歩~

高等植物や藻類の光合成では、太陽エネルギーを利用して水を酸素と水素イオンに分解します(図1)。この反応を行う光合成蛋白質Photosystem II(PSII)注1)中に埋め込まれた天然の触媒部位 Mn4CaO5錯体は、錯体を構成するマンガン(Mn)と酸素(O)間の結合が数カ所で伸びており、結果として「歪んだ椅子」型構造をとっています。この歪んだ非対称性こそが水分解触媒活性をもたらすのに重要であることが知られています。この構造解明が進まないことが、効率的な人工光合成系の開発を阻害しておりました。

このたび、大阪大学理学研究科の石北 央 教授と、斉藤圭亮 助教の研究グループは、PSII蛋白質分子に対して、今年のノーベル化学賞受賞対象となった量子化学計算手法「QM/MM法」を行うことで、これまで、歪みの原因はCaが一つだけ含まれていることによると考えられていた定説を覆し、歪みの直接の原因は「椅子」の「台座」部位に存在するCaではなく、そこから離れた「背もたれ」部位に一つだけ存在するMnであることを明らかにしました。これにより、今後は人工光合成系の開発が大きく加速することが期待されます。

なお、石北 央 教授は今年のノーベル化学賞受賞者Arieh Warshel教授(南カリフォルニア大)のポスドク研究員として、2008年まで研究していました。

また、本研究成果は2013年10月2日(オランダ時間)にオランダの生化学専門誌「 Biochimica et Biophysica Acta 」のオンライン版で公開されました。

図1 光合成で水分解・酸素発生反応を行うPSII蛋白質全体像(左)。蛋白質内に埋め込まれた触媒部位Mn4CaO5錯体および周辺の酸化還元活性部位(右)。

図1 光合成で水分解・酸素発生反応を行うPSII蛋白質全体像(左)。蛋白質内に埋め込まれた触媒部位Mn4CaO5錯体および周辺の酸化還元活性部位(右)。

本件に関する問い合わせ先

国立大学法人大阪大学大学院理学研究科 生物科学専攻
教授 石北 央(いしきた ひろし)
Tel: 06-6850-5422 FAX: 06-6850-5423