1. HOME >
  2. 研究トピックス >
  3. 物質の根源クォークにひそむ複雑性を発見〜宇宙を形作る素粒子の運動におけるカオスの指標の定式化〜
研究トピックス
2016/12/09 投稿

物質の根源クォークにひそむ複雑性を発見〜宇宙を形作る素粒子の運動におけるカオスの指標の定式化〜

橋本 幸士(大阪大学大学院理学研究科教授)は、村田 佳樹(慶應義塾大学日吉物理学教室助教)、吉田 健太郎(京都大学大学院理学研究科助教)との共同研究により、物質素粒子クォークの力学における複雑性の指標を計算することに、世界で初めて成功しました。
運動の複雑さは、カオス理論で指標化されます。この世界を形作る素粒子の運動に対して、カオス理論を適用した例は、力を媒介する素粒子(ボソン)に対してだけでした。一方、17種類発見されている素粒子のうち、物質を構成する元となっているクォークなどの「物質素粒子」(フェルミオン)に対しては、カオス理論の適用は困難でした。
本研究では、素粒子理論で近年発展した「ホログラフィー原理」という新たな手法を用いることで、この困難を解決しました。この手法を用いると、クォークの運動を仮想的なボソンの運動に等価変形して書き換えることができます。この書き換えにより、カオスの指標であるリャプノフ指数を物質素粒子に対して計算することに成功し、クォークの運動にカオスが存在することを示しました。
我々の世界の複雑性は、根源的にはどのように説明されるのか?世界を構成する素粒子を司る「素粒子の標準理論」は、その数式は既に知られていますが、そこからどのように複雑性が現れるのかは未知です。複雑性を計算できるカオス理論の適用範囲が、量子力学的に解析することの大変困難な物質素粒子クォークにまで広がることは、素粒子の標準理論の複雑性を解明するための一つのステップと言えます。本研究を契機として、素粒子の標準理論を自然が選んでいる理由について、より深く理解されていくことが期待されます。

本研究結果は、2016年11月30日(米国時間)に「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。

topics-20161209

クォークは単体では運動できず閉じ込めの状態にあるので、反クォークと一体となり、湯川秀樹の導入した中間子メソン(π、σ)を形成している。πとσが取りうる値によって、ポテンシャルエネルギー V がどのように変化するかが左図に表されている。πとσの運動は、ポテンシャル曲面の中で運動するボールのように取り扱うことができる。現在の宇宙で実現されている最も低い底(ポテンシャルの底)の他に、セパラトリクスと呼ばれる、馬の鞍の形をした「鞍点」が存在することがわかる。セパラトリクスがあると、運動の分岐が存在し、カオスを生成する源となる。図の下部には、カオスを発生することで有名な「二重振り子」との対応を示す。

本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院理学研究科 物理学専攻
教授 橋本 幸士(はしもと こうじ)
E-mail:koji@phys.sci.osaka-u.ac.jp