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研究トピックス
2016/09/06 投稿

鉄化合物における巨大な熱電効果の起源解明 ‐低温で高い性能を示す熱電変換素子の新たな設計指針‐

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の高橋英史助教(研究開始時:名古屋大学大学院理学研究科 日本学術振興会特別研究員PD)、同研究科の石渡晋太郎准教授(JSTさきがけ研究者兼任)、名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻の寺崎一郎教授、大阪大学大学院理学研究科附属先端強磁場科学研究センターの萩原政幸教授らの研究グループは、鉄を主成分とする化合物FeSb2が示す極低温における巨大な熱電効果の起源を解明し、低温での熱電変換素子の新たな設計指針を提唱しました。

熱電変換材料は、電気エネルギーと熱エネルギーを直接変換することができるため、廃熱を利用した発電や、フロンガスを用いない冷凍装置(ペルチエ式クーラー)として用いることができます。室温近傍で動作する熱電変換材料としては、ビスマス系化合物が知られており、ワインクーラーなどに使われています。一方、超伝導リニアなどの動作に必要な極低温を実現するための熱電変換素子は実用化されておらず、低温熱電材料の新たな設計指針の提案が望まれていました。

鉄化合物FeSb2は、-260℃の極低温でビスマス系熱電材料に比べて100倍以上の巨大な熱電効果を示すことが報告されており、低温で動作する熱電材料として期待されています。しかしながら、この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず、熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針は得られていませんでした。今回、本研究グループは、FeSb2の超高純度単結晶を育成し、その結晶サイズを大きくすることで、実際に熱電効果が巨大化すること、またその起源が結晶格子の振動(フォノン)と電子の相互作用(図1)に起因することを明らかにしました。また、このフォノンと電子の相互作用(フォノンドラッグ効果)が電子の有効質量が大きい場合により顕著に現れることを見出しました。本研究の成果は、極低温で高い性能をもつ熱電材料の新たな設計指針を与えるものとして期待されます。

本研究成果は、Nature Communications誌(日本時間9月6日午後6時)に掲載されました。

photo20160906

図1:フォノンドラッグ効果の概念図。結晶中の温度勾配により格子振動(フォノン)が高温から低温に伝わる。フォノンは、電子―格子相互作用を通じて電子を運ぶことが可能であり、また電子と同様に高温側から低温側に移動する性質をもつため、通常の熱電効果に重畳する形で温度勾配の方向に電圧を発生させることができる。

本件に関する問い合わせ先

大阪大学大学院理学研究科附属先端強磁場科学研究センター
萩原 政幸(はぎわら まさゆき)
E-mail:hagiwara@ahmf.sci.osaka-u.ac.jp